――Utophere――
物語背景
西暦20XX年、人々は現実の世界に限界を感じていた
増え続ける人口問題、温暖化等の環境問題…
人々の間では近いうちに戦争が起こるのではないかと噂されていた
そんな情勢の中、毎年行われている科学者達の討論会で、世界は激変した
一人の科学者が提唱した"理論"
それは、現実世界とは異なる空間…いわゆる"仮想空間"を生成することだった
それから数年後、科学者達は"仮想空間"を生成することに成功した
コンピュータ上に存在する無限の空間…その中に肉体を変換し意識を取り込む事によって
人々は新たな土地を手に入れたのだった…
それからしばらくして"仮想空間"の存在が世に浸透し始めた
「現実で出来ない事は仮想で行い、仮想で出来ない事は現実で行う」
当時の人々の思想を明確に捉えたこのキャッチフレーズは
時代によって生まれたと言っても過言ではない
そう…この時は、これで世界は安泰だと、誰しもが思っていた
数年後…"仮想空間"の浸透により喜びを感じる人がいる一方で
長い間血肉の身体で生活を続けてきた人達の中から
"仮想世界"は忌むべき存在だと言う人が増えてきた
どんな物事にも対となる立場を取る人が出てくるのは必然だったのかもしれない
また、その他にも"仮想空間"を理想郷として捉える人達が一定数増えた
その結果、"仮想空間"を対象とした論争や闘争が幾度となく起こり続けた…
人々はその経験を経て、"現実世界"と"仮想世界"を完全に分離して考えるようになった
やがて時は流れ、人々は"現実主義派"と"仮想主義派"に分裂した
"仮想世界"の創設者である科学者達は、この現状を見て悲痛な気持ちになった
そうして「二度とこのような問題が起こらないように…」と
"仮想空間"へと至る手段の一切を闇に葬去った
後の世に歴史の裏側でのみ語られた「断絶」というこの出来事により
"現実世界"で生きる人々と"仮想空間"で生きる人々は完全に分断されたのだった…
それから約100年の時が過ぎた
西暦21XX年…かつて提言された"仮想空間"の出来事は
政府のもみ消しもあり、歴史として後世に伝えられる事は無く
謎の人口減少という怪現象を残して、歴史の闇に埋もれたのだった…
そう…人々が減ったことにより、時代は落ち着きを取り戻した
それはまるで地球問題が解決された20XX年の世界が、そこにあるかのような―――